ELIZA(2)クライアント中心療法とは?

2019/02/26
藤田昭人

 

ELIZAの紹介では必ずと言って良いほどに登場するクライアント中心療法ですが、でも 

英語が堪能な方はこちらを見ていただくとして…

上記のような経緯により以前は出版されていた日本語対訳はいずれも廃刊になっているようです。やむなく日本人の専門家による各々の療法に関する簡潔なコメントを探してみたところ静岡の伊東カウンセリング研究会の八十川徹先生の講義録を見つけました。 

伊東カウンセリング研究会 講義予定・内容

グロリアと3人のセラピスト(1) 2002.10/20

グロリアと3人のセラピスト(2) 2002.12/15

各セラピストに対する八十川先生のコメントを引用します。

 

Carl Rogers (クライアント中心療法)

・ロジャースはとにかく、ひたすら相手の内面に焦点を当てようとしている。
・そのうち、ふっと話の方向が変わり、グロリアが前向きになる。それがものすごく不思議である。いつの間にか手段、やり方、解決法について話をしている。初めからグロリアは答えを知っていて、ロジャースはその答えを覆っていたものを少しずつ剥がしていく、そんな感じがする。
・問題はほぼ片づいたように思えるが、面接ではさらに話が進み、父のことまで話題になっている。「面接時間がまだあるから」というのが理由であろうが、さらに別の問題が現れてくる。
・ふりかえりでロジャースは否定しているが、父の話題について、これは感情転移だろうか。
・「あのとき、あそこで」という過去の感情が「今、ここで」に変わっていくことで良くなっていく、というロジャースの振り返りの内容が印象に残った。

 

Fritz Perls ゲシュタルト療法)

・徹底的にしぐさに着目している。言葉としぐさのズレ・矛盾をひたすら厳しく突っ込んでいる。
・正直「厳しい」カウンセリングだと思う。
・それに対してグロリアには激しい感情の表出が見られる。パールズはグロリアを挑発しつつ本音を引き出そうとしている。
・とにかく感情を出させようとしている。


Albert Ellis(論理療法)

・グロリアの方はエリスの発言に「決めつけ」を感じ、反発している。
・イライラしてきたグロリアはたばこを出し、吸い始める。これはロジャースの面接時には見られなかった行動である。
・「論理療法」は「説得療法」である、と感じる。
・言葉遊びの要素がある。このような方法での面接は、知的に高い人でないと効果がないのではないだろうか。
・極めて面接のテンポが速い。正直、内容に追いつけない。
・後半グロリアはエリスのいうことを理解しようとし、前向きに考えようとしているが、グロリアは前半のイライラからいつ、どのように切り替わったのだろう。
・行動させる、という点ではゲシュタルトに近いと感じた。

 非常に素直な感想が語られているので、他の療法と比較したクライアント中心療法の特徴がわかりやすいコメントだと僕は感じました。Rogersのインタビューは「傾聴」という言葉が相応しい穏やかな会話なんでしょうかね?

 

結局、クライアント中心療法って?

…というわけで、ひと通り情報を収集してみました。が、カウンセラーやセラピスト向けの説明だとプログラマの僕には腑に落ちない感じが拭えません。そこで前述の八十川先生の Rogers 論を拝借することにしました。

カウンセリングの歴史的発展とロジャース
・1900年代はじめ フロイドが精神分析を作ったころ、カウンセリングとは医者のするものであった。
・次いで1930年代、ウイリアムスンが登場し、カウンセリングは心理学者のするものとされるようになった。
・さらに1940年代、ロジャースは「心理療法」と「カウンセリング」を同一のものと見なし、カウンセリングは医者などの資格がない素人でもできるとした。これがロジャースの功績である。
・ロジャースは時々によって考え方が多少変化するが、終始一貫して大切にしていたことは「リレーションrelation、つまり人間関係が人をよくする」ということである。
・「自己理論」では次のように考える。「人は生まれながらにしてある傾向を持った有機体である。そしてある傾向とは自立・独立・成長である。」
・また、生まれてきた人間に自他の区別はない。成長し他人の存在に気づき、そして自分(自己self)という存在に気が付く。そこに比較が生まれ、自分の希望と現実の差がに思い至る。そのと希望と現実の差が大きければ「自己不一致」の状態となる。これがこころの病気となるのである。従って、「治る」とは「自己一致」することである。そのための技法として、受容、繰り返し、明確化などがある。

技法
1)受容acceptance … ひたすら「うんうん」と聞くこと
2)繰り返しrepeat … 重要な発言を繰り返す。クライエントが使った言葉をそのまま繰り返す。
3)明確化(明瞭化) … 相手の感情を、カウンセラーの言葉で返してやること。
・これらの技法の根底にあり、これらをひとまとめにしたものが「共感」である。これはクライエントのものの見方・考え方に立って相手の気持ちを受け止めることであり、良い悪いは言わない。

コメントの技法ところで挙げられている「受容」「繰り返し」「明確化」というキーワードを見て、ようやくELIZAのスクリプト(DOCTER)との接点が見えてきた印象です。

「受容」については論文の会話例で被験者はELIZAが「あまり積極的でない」と指摘し、その理由として「あなたは私と議論しないから」と答えていることが思い出されます。またELIZAの返答が原則として被験者の発言を質問に言い換えているので、これはある種の「繰り返し」と言えます。「明確化」と言えば「具体的な例を考えられますか?」というELIZAの返答が該当するのかな?少しこじつけみたいにも思えますが、この3つのルールはELIZAスクリプトを作成する時のコツやポイントと考えても良さそうです。

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どうやら…

クライアント中心療法は、クライアントの視点・論点に立って、ひたすらその内面を肯定的に受け止め続けることにより、 クライアント自身に解決の糸口を見つけさせる、という方法のように僕には理解できました。そのためのセラピストの技法はクライアントの信頼を得るため、さらにクライアントからの自発的な語りを促すためのようで、いわゆる「傾聴」のための技法ということのようです。

本ページは冒頭で述べたように「当たって砕けろ」的内容になってしまいましたが、今度は実際のELIZAがどのように動作しているか?が気になってきました。